『立憲的改憲ー憲法をリベラルに考える7つの対論』

本書は、山尾志桜里氏(刊行当時立憲民主党、現在国民民主党所属)が安倍政権による改憲に対する対案を提起するにあたって、7人の論客と対談したものである。

 

立憲的改憲 (ちくま新書)

立憲的改憲 (ちくま新書)

 

 



山尾は自身の改憲案(氏は自身の改憲を「立憲的」改憲と称している)の一部として以下の2つを提起している。

自衛権の行使を個別的自衛権に限定するという明文規定を設ける。

②権力の暴走に歯止めをかけるために憲法裁判所を創設する。

どちらも、それまで積み上げてきた憲法解釈を容易く変更する安倍政権を念頭に置いたものである。本書では、この2つの提案を軸に、憲法学者や、政治思想、外交の専門家たちとの対談が行われた。

 

私は統治機構改憲論(特に選挙制度や議会制)に興味があるため、本書の内容は正直なところ期待外れではあった。

しかし、その中でも覚えておきたい論点、思考法があったため、ここに書き残しておく。

 

まず、1点目は、第2章の井上武史との対談において、井上が持ち出した考え方である。井上は、フランスにおける憲法改正のロジックを紹介し、憲法改正とは本来、目指すべき国家像、理想像のようなものがあり、それを解決する手段として、憲法改正を提起すべきであると述べる。

本書でも、山尾、井上の両者が指摘しているが、自民党改憲案の4項目(教育無償、合区解消、緊急事態条項、自衛隊明記)には、そのような理念がない。私としては、参議院は地方代表の府にすべきだと考えているため、そこから合区解消という考えに至っているが、改憲案は政局的な問題から合区解消を提案しているにすぎない。

本気で改憲をしたいのであれば、理念を示す必要がある。

 

次に、もう1つの論点は、第6章において、駒村圭吾から提起されたものである。すなわち、法と政治はある程度の距離を保つべきである、と駒村は主張するのである。

これは、憲法解釈に国民が関わる機会が少ないこと(=専門家だけにより解釈が行われていること)が、国民が憲法から遠ざかっている原因なのではないか、という山尾の問いに対し答えたものであるが、私もこのバランスの取り方は、国のあり方を考える上で、非常に適した考え方であると思っている。

そのため、別の文脈ではあるが、私は裁判員制度や、抽選制議会などの民主的基盤を強化しようとする各種の試みには慎重な立場である。

確かに、民意を取り入れることは重要な試みではあるが、専門家だからこそ担える職責というものがあると考えている。また、そのような中で取られてきた均衡もあるだろう。それを壊して、民意を取り入れることは、新たな問題を生じさせるのではないか。

 

さて、あまり関係のない私見が長くなったが、本書は憲法9条と憲法裁判所という2点を糧に、憲法改正について、7人の専門家から多大な情報を抽出している。また、ただ単に党のマニフェスト、という形でもなく、山尾の改憲案と自民党改憲案について、専門的な立場から批判がなされている。

憲法改正に興味はあるけど、党派的な話はちょっとな…という方や、特に憲法9条を改正するならどういう選択肢があるのか知りたいという方にはおすすめできる内容である。