中北浩爾(2019)『自公政権とは何か―「連立」にみる強さの正体』、筑摩書房(ちくま新書)。

 

今回は、中北浩爾(2019)『自公政権とは何か―「連立」にみる強さの正体』の書評です。簡単な要約とコメントという構成になっています。

 

 要約

一章 神話としての二党制

日本では、2大政党制が成立したことはない。

 

それは、日本の政党制の実態は多党制であり、さらに二大政党があるように見えても、自民党が優位であることがほとんであるから。

 

第二章 連立の政治学

連立政権の組まれ方の説明は、サイズの理論より政策距離の理論によりよく説明されている。ただし、政策距離を測るのは難しく、「連立形成という結果に基づき、政党間の政策距離や争点の重要性を導くという後知恵的な解釈に陥りがち」になる。

連立政権の特徴とそのジレンマを弱める制度(p.8384)から考えると日本の委員会制度は連立政権を支える役割を果たしている。

自公政権は選挙前連合に基づくもの。

選挙前連合を前提とする二極型の穏健な多党制が評価されている。

↑野党として選挙前連合を結成するとき、選挙後にそれが確実に保たれるのか?

小選挙区制は二党制を、小選挙区比例代表混合制、とりわけ並立制は二ブロック(二極)型の多党制を、比例代表制は多極型の多党制を生じさせる」(p.94,95)。

1994年の政治改革を背景として、一党優位政党制から二党制に変化したのではなく、一党優位の多極型多党制から一党優位に近い二ブロック型多党制に移行した」(p.99)。

本書の仮説は、政策調整の手続きの存在と選挙協力により、連立が長期化しているというもの。

 

 

第三章 非自民連立から自社さへ

日本における連立政権の端緒を描いた章

連立政権における政策決定のシステムを叙述

 

第四章 自公政権の形成と発展

自公政権がいかにして生まれ、その関係が選挙協力を通してどのように深化していったのかを説明する

 

第五章 なぜ民主党政権は行きづまったのか

自公政権とは対照的に、民社国連立政権がなぜ失敗したのか、民主党の連立パートナーへの配慮の不足や選挙協力の浅さから説明する

 

第六章 自公政権の政策決定とポスト配分

自民党公明党では、明確な政策的な違いがある。それは一方で、多様な層のニーズにこたえることができるという利点にもなっているが、やはり連立政権にとっては障害となりかねない。それをどのように解決しているのかという問いに対して、筆者は与党内における対等な立場での政策決定プロセスをもって説明する。すなわち、議席数の比率に反して、自公はほぼ対等な立場から政策を検討しており、自民党の寛容さがみられるのである。他にも、安保政策といった重要な争点においても妥協がなされたのは、連立の長期化による人間関係の深化と、選挙協力という実利があげられている。

 

第七章 自民・公明の選挙協力

選挙協力の一環として、候補者調整と推薦が行われている。連立の初期こそ両者は不完全な連携を行っていたが、連立が長期化するにつれてその連携は深化していった。さらに、選挙区と比例区の間で票の交換が行われている。

 

 コメント

 

 自公政権の長期化の要因を示した良書。小選挙区比例代表混合制における、政党システムの2ブロック化という構図において、非自民勢力が連立の維持に苦慮し、失敗する一方で、自公ブロックがそれに成功している様子を対照的に描いています。本書における議論の中でも、私は大きく分けて2つの点に着目しました。

 1点目は、連立政権内における連立パートナーに対するの有無です。自民党自公政権においてもそうでしたが、自社さ政権においても、連立のパートナーに対してある種の寛容さを見せました。そのことが連立政権の成功の一つの要因であったとします。他方、私が注目したいのが、連立のマイナーパートナーから自民党に対する配慮、ないし感情です。結果論になるかもしれませんが、公明党の関係者は、一時は自民党と対立していたものの、当時から将来的には自民党との連立の可能性・必要性を感じていたとされています。一方で、社会党公明党と同様に自民党と対立していたといっても、公明党とはその期間・規模が大きく異なります。そのため、連立形成後も内部で反発があり、選挙協力まで至らず、連立の崩壊へと至りました。このように、連立のパートナーからの自民党に対する感情の如何も連立の成否につながっているように思えます。

 第2に、選挙協力の存在の大きさです。本書を読む前に感じていたのは、政策的に異なる両党がなぜこのような長期間にわたって連立政権を持続することができているのか、ということでした。その答えは、本書によると選挙協力という実利でした。政治家である以上、政策の追求も大事であるが、それ以上に政治家として生き残ること、つまり次の選挙でも当選することがより重要です。その点から考えると、やはり、選挙協力の存在は大きなものでしょう。本書を通じて、自民党のある意味での狡猾さというものを感じずにはいられず、政策追求と、政治家としての身分を天秤にかけたうえでの決断の重要さが身に染みてわかりました。

 

 

自公政権とは何か (ちくま新書)

自公政権とは何か (ちくま新書)